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救急集中医療の逼迫と緊急事態宣言の必要性

救急集中医療の逼迫と緊急事態宣言の必要性

緊急事態宣言の延長が9都道府県に出されました。内官官房HP

現場に関わるスタッフ達は、止むことのない患者さんの治療のために、全身全霊で対応しています。

精神的・肉体的な負担は想像を超えるほど大きく、プライベートな時間の多くをも費やし、犠牲にすることも多々ありながら人員不足の中限界を超えても尚働き続け、強い責任感と使命感を持ち、目の前の患者さんの命を全力で助けるために精一杯働いています。

側から見たら自粛疲れで我慢を強いられていい加減にして欲しい、早く解除して欲しい、対応が遅い、何もしていない、などの言い分を持つ方もいますが、根拠のないことはいくらでも言えます。少しでも現状を理解し、皆様一人一人の行動が、医療崩壊を防ぎ本当に救命しなければならない命が一人でも多く助けられることにつながります。

どうか、皆様のご理解とご協力をお願い致します。

現場ではどれだけ努力しても、絶え間ない患者さんの搬送や急変で病床も常にほぼ満床と人手不足で手一杯になり、医療崩壊寸前です。

現場の取材記事です。ご参考にしてみて下さい。NHK web特集

それぞれの地域で救急集中医療を担う現場では、集中病床数の増加と人員増加を進めています。

しかし、それはすぐにできることではありません。

第三次救急指定医療機関では場所を作ることでさえも多くの医療機器を配置することや、急変時や緊急処置などで多くの人員を必要とするため、感染予防や安全のためにもこれまでのエビデンスに基づき十分なスペースや衛生管理が求められます。(集中治療医学会HP 集中治療部設置のための指針

建築でも大掛かりで特殊な構造のため、作業にも時間がかかりますが、何よりも優秀な人材を育成するためには、この状況でも耐え得る精神力と高度で膨大な知識と技術を瞬時に分析し判断する高い能力が求められます。誰もがすぐにできるものではなく、日々の研修で知識と技術を習得しても、重症管理には長年の経験値が大きく左右します。

救急集中治療の現場は特殊領域と言われ、同じ職種であっても、これは経験しないと想像もつかず、度重なる研修と経験を要するため、すぐに人材育成ができるものではありません。

そして、救急集中治療を支えるのは一般病棟や外来など、他の部門を支える医療従事者と関係者です。さらに医療を支えるのは、世界中の皆様です。生きている人が一人一人正しい理解と協力の下に、自己管理と慎重な行動が医療を支え、人の命を助けることにつながります。

重症化するリスクは、心臓血管疾患、高血圧、糖尿病、慢性肺疾患、慢性腎疾患などの基礎疾患や、加齢、肥満や喫煙などが重症化リスク要因であることがわかっています。基礎疾患がある場合や高齢者は努力しても難しい場合もありますが、不要不急の外出と人との接触を最小限にし、飲酒や喫煙や肥満を改善することは努力でできることです。また、基礎疾患である心疾患・脳虚血疾患・糖尿病・慢性腎不全などは生活習慣の改善によっても予防することができます(先天性などは除く)。

少し古い記事ですが、基本は変わりませんのでご参考にしてみて下さい。保健師だより

現場では常に慎重に僅かな変化も見逃さないよう、気を張り詰めて管理しています。その重圧にも耐え得る精神力と集中力が必要です。

ほんの少しの判断ミスや異常の発見の遅れによって、助けられる命でさえも生命の危機に晒してしまうこともできます。

スタッフ一人一人が瞬時に正しい判断をしながら、微妙な変化を察知し、一つ一つの手技にもエビデンスに基づいて行動するだけではなく、言葉では現しきれない勘とスキルが必要です。

そして、スタッフ一同が円滑なコミュニケーションと知識を駆使して、全員が今何をするべきかの判断ができ阿吽の呼吸でそれぞれの役割を担い即座の判断と行動でチーム医療が成り立っています。

Covid-19の重症例では、ウィルス感染によりIL6などの炎症性サイトカインの産生により肺細胞の傷害をきたし、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)となり、肺胞の虚脱により酸素を血液中に取り込むことができなくなり、各臓器への酸素供給が困難になることと、感染による敗血症などのために多臓器不全となり死に至る例があります。

人工呼吸器はもちろん、血液酸素分圧を頻繁に調べ、酸塩基平衡(酸塩基平衡 飯野靖彦 日本医科大学第 2 内科 や電解質など呼吸と循環・代謝が正常に保たれるよう管理します。集中治療を要する場合には体外式膜型人工肺 (ECMO)(エクモとは 一般社団法人 日本体外循環技術医学会 日本COVID-19対策ECMOnet )を使用する場合がありますが、簡単に言えばこれは太い管を体に挿入し、全員の血液を機械に送り込み酸素化して体内に戻す肺の役割を器械が担うものですが、この管が体から抜ければ患者さんを死に至らしめる結果になりますので、慎重かつ厳重な管理が必要です。そしてベッドもう一つ分のスペースを必要とします。血液が固まらないよう抗凝固剤を持続投与するため、身体中のあらゆるところから出血しやすくなります。また、患者さんが無意識に動くことで管が抜ける事故や苦痛によるICUシンドロームを防ぐため、筋弛緩剤と鎮静剤、麻薬鎮痛剤などを微量投与します。循環動態と代謝は不安定になるため、異常の早期発見と共に24時間慎重に管理し安定させるために昇圧剤や強心薬、高カロリー輸液と血糖コントロールや利尿剤など、多くの薬剤を微量で持続投与するため、10種類以上の薬剤を同時に24時間投与するための器械を装着し、毎時間の水分出納管理も行います。

循環動態を管理するために、心電図やSPO2、血圧などのモニタリングは当然ですが、心拍出量や心係数、肺血管の状態などをモニタリングするためにスワンガンツカテーテルが挿入される場合もあります。(看護roo スワンガンツカテーテルで得られる評価項目)

IL6などのサイトカイン除去のために、持続的血液浄化療法(CHDF)も併用されることもあり、体内に挿入される管の数は頭から足先まで何本にも及びます。多くの合併症も起こり得ます。

患者さんは全く自力では動けないため、褥瘡などの皮膚損傷を来しやすく、2時間以内の体位変換を行いますが、たくさんの医療機器に繋がれ、少しでも緩んだり抜けたりすれば死に至る可能性もあるため、数人がかりで慎重に行い、皮膚の状態を観察し、保清にも努めます。自分では何もできないため、感染予防のため歯磨きや洗面、皮膚の清潔や排泄も適切に保たれるように管理します。

そのような日常生活動作の援助でさえも、突然の循環動態の変調をきたす恐れがあります。ですので、一つの動作を行っている間でも、全身状態といくつも繋がれている医療機器と、循環動態をモニターしているいくつもの画面と患者さんの状態を常に同時に観察しながら行っています。一つの処置でさえも命に直結する事ばかりです。それを一人だけで行うのではなく、いざと言う時にすぐ様対応できるように、医師・看護師が今誰に何を行っているかをお互いに把握しながら協力し合って対応しています。

スタッフ一人だけでは管理しきれるものではなく、一人の命を守るために何人ものスタッフが共に努力をし協力しあって1日も早い回復を祈って、できる限りのことを日々その場で全力で行っています。

こられを厳重に管理するスタッフの育成は簡単なものではありません。

誰もが救急集中医療を担うわけではなく、それを他部門や他の医療スタッフが支え、それを他の業種が支え、医療をまた様々な事業が支え、それをまた皆様一人一人が支えています。

限りある場所と資材と人材を確保しながら安全に医療を提供できるように体制を整えています。

限りあるものには限界があります。

長引く自粛や行動制限によってストレスを感じている方も多いと思いますが、ストレスをうまく解放する方法を身に付け、どうか皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

保健室オンラインでは、ストレスマネジメント、メンタルヘルスケア、食事、運動療法などの自己管理方法を提供しています。

心の病気に対しては心理療法なども行っておりますので、お気軽にご相談下さい。hokensituonline@gmail.com

 

■参考文献■

1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である 著者 平野 俊夫 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 理事長 前 大阪大学 総長

2)新型コロナウイルス2019 (COVID-19)  著者: Crystal Ives-Tallman, Assistant Professor of Emergency Medicine and Critical Care, UCSF Fresno

3)進化した呼吸管理 竹田 晋浩a/ 青景 聡之b a日本医科大学付属病院外科系集中治療科 bカロリンスカ大学病院 ECMO センター 日呼吸誌 3(6),2014

4)体外式膜型人工肺(ECMO)療法  青景聡之 竹田晋浩 日本医科大学付属病院集中治療室

5)COVID–19急性呼吸不全への人工呼吸管理とECMO管理:基本的考え方(Mechanical ventilation and extracorporeal membrane oxygenation for acute respiratory failure owing to COVID–19: basic concept) 日本集中治療医学会雑誌 厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」分担研究班* (Shared Research Group in Ministry of Health, Labor and Welfare Scientific Research Grant for a Research for Risk Assessment of Emerging and Re-emerging Infectious Disease and Implementation of Risk Management Function) (厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」分担研究班*)

6)日本集中治療医学会 集中治療室における安全管理指針 日本集中治療医学会薬事・規格・安全対策委員会

7)連続的Sv-O2 モニターの意義 エドワーズサイエンス株式会社

8)COVID-19 感染症に血液浄化療法を施行した 3 例  1)相模原協同病院呼吸器内科  2)同 腎臓内科 間中 博也1) 窪田 彬2) 柴原 宏2) 他

9)集中治療領域における急性血液浄化療法の変遷 中田 孝明,織田 成人,安部 隆三,服部 憲幸  千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学

 

その他、文中に掲載

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