目次
●パンチャマハーヤッグニャの背景
□パンチャマハーヤッグニャとは
□パンチャマハーヤッグニャの目的
□パンチャマハーヤッグニャに必要な態度
・恩恵の受け取り手から役割を逆転していかねばならない
・与えられたもの全てを受け入れる
□パンチャマハーヤッグニャからもたらされるもの
・成熟度の最初の段階
・モークシャを求める段階
■デーヴァヤッグニャ
・神と個人の間の循環を理解する
・自然の力にデーヴァターを見る
・科学技術の進歩にデーヴァターのはたらきを見る
・社会貢献もデーヴァヤッグニャ
■リシヤッグニャ
・聖者と先生に感謝を表すヤッグニャ
■ピットゥルヤッグニャ
・先祖と両親に感謝を表すヤッグニャ
■マヌッシャヤッグニャ
・奉仕によって社会を支える
・分業化が進む社会で他者の貢献を思う
■ブータヤッグニャ
○まとめ
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■デーヴァヤッグニャ
デーヴァヤッグニャは神々の現れを認識し、感謝を捧げることです。
全てにイーシュヴァラを認識することで、アンタッカラナ シュッディを得ます。
・神と個人の間の循環を理解する
デーヴァヤッグニャは元はヴェーダの儀式で、その一つに夫婦で執り行われるアッグニホーットラムという火の儀式があります。アッグニ・火を介して特定のデーヴァターに捧げ物を贈り、それはそのデーヴァターが所有するもので、自分の所有ではないと明確に述べられています。自分のものは全てデーヴァターたちに所有権があり、それらが完璧なタイミングで与えられていると理解すること、神と個人の間に常に循環があり、与えれば与えるほど与えられると理解すれば、何を求めなくても満たされていると気が付きます。
・自然の力にデーヴァターを見る
ヴェーダの儀式は、今日ではプージャーやジャパ瞑想などに置き換わっています。デーヴァは全ての自然の力を表し、例えばヴァーユは風、ジャラは水、プルティヴィーは土、他には雷や稲妻などもデーヴァターです。自然を相手にナマスカーラ・礼拝をし、感謝の気持ちを伝えることも儀式でありデーヴァヤッグニャです。まず朝起きたらパンチャブータ、五つの基本要素である空間、風、火、水、土の恩恵を思い出し、祈りを捧げます。
例えば農家の方々が食べ物を作ってくれているのもデーヴァターがはたらいていて、まず大地が必要であり、太陽のエネルギーを得て作物が育ち、雨が降り、土の汚れは風によって浄化し、それらが全て空間の中で起こっています。太陽が昇る時には目覚め、スーリヤデーヴァター・太陽神を祈ります。
季節の移り変わりもデーヴァターがはたらいて、日本の文化では二十四節気(立春、春分、など)も同じデーヴァターに祈る神道の儀式です(同じヴェーダであり、音の響きによって聖者が聞き取った口伝による教えで、始まりのないものであり、必要な人にしか理解できないため奥義と言われています)。
デーヴァターへの奉仕はさらに大規模な人類への奉仕になります。
・科学技術の進歩にデーヴァターのはたらきを見る
科学における自然とは、シャーストラ・聖典におけるデーヴァターのこと。科学技術は誰か人が作り出したものではなく、自然界の法則、つまりデーヴァターのはたらきを見つけ活用しているものです。例えばインターネット技術、物流や配送システムなども、研究者、企業、従業員などがいるから成り立っているのはもちろん、その背後にある自然科学の恩恵、デーヴァターのはたらきがあることを忘れないようにしましょう。
・社会貢献もデーヴァヤッグニャ
仕事や目の前の人も全て、デーヴァターからベストなタイミングで与えらています。その中で役に立とう、貢献しようとすることもヤッグニャです。小さなことにも感謝する人は感謝され、与えようとする人は与えられ、何にも依存することなく、喜びの中に生きていられます。そうした循環がたった一つとして回っていることが理解できると、モークシャは当たり前に見えてくるようになります。
◼️リシヤッグニャ
・聖者と先生に感謝を表すヤッグニャ
リシヤッグニャ(ṛṣi yajña)とは、ṛṣi;聖者、yajña;世界への私達の貢献、つまり聖者・先生への感謝の気持ちを持ち祈り深く生きることです。 今私たちがこうしてヴェーダの学びを受け、全ての知識を得られていることは、ダクシナームールティを始め、ヴヤーサ(ヴェーダの編纂者、バガヴァッドギーターの作者)という偉大な聖者や、聖典の解説を付けたアーディ シャンカラーチャーリヤのおかげであり、何千年もの間この文化を守り、教えを残してきたすべての聖者のおかげで正しい伝統が受け継がれてきました。
また、毎日お祈りの儀式を続けられていることは、先生が素晴らしい学びを与えてくれているからです。これらの偉大な聖者・先生へ感謝の気持ちを捧げましょう。
そしてあなたができる貢献は、ヴェーダのマントラをきちんと唱えること・季節ごとの祭事を執り行なうことなどがあります。何千年も前は生徒はマントラを暗記をしていました。音である聖典の言葉を耳で聞いて口伝によって受け継がれてきました。それが何かに文字を書くことで残され、現代ではパソコンで見ることができ、暗記しなくてもすぐに読める時代となりましたが、学んだことを声に出して唱え、それを定期的に暗唱することが世界の創造物を浄化させ、素晴らしい貢献となります。
まだ完全な知識がなくてもそれはリシヤッグニャとなります。 これまで聖者と先生から受けた恩恵をただ受け取るだけではなく、私たちも与える人になり貢献することが私たちの喜びになることで成長し、それが家族や社会のための奉仕になります。
そして生かされていることを知ることで視界を広げていくことができるでしょう。
◼️ピットゥルヤッグニャ
・先祖と両親に感謝を表すヤッグニャ
ピットゥルヤッグニャとは、両親・祖父母・曽祖父母、自分のルーツとなるご先祖様全てに感謝の気持ちを持って祈り深く生きることです。 そして周りの全ての年長者に対しても感謝の気持ちを持つことを忘れてはなりません。 なぜなら、今こうして自分がいるのは、ご先祖様が代々受け継いできてくれた結果であり、ご先祖様から頂いている恩恵によるものがあるからです。そこに幸せを祈り、尊敬や感謝の気持ちを表しましょう。
もしも祖父母が近くにいるならば、ナマスカーラ(平伏して感謝敬意を表す)を捧げ、もしいないならばお供えや捧げ物をする貢献を忘れずに行いましょう。お墓参りもご先祖様を守る大切な儀式です。
また自分を産んでくれ、ここまで育ててくれた両親への感謝、信頼と尊敬を捧げましょう。 そしてあなたが子供を育て、子孫を残すこともピットゥルヤッグニャのひとつと言われています。なぜなら、ご先祖様からの恩恵が今後も継続するよう、永続的になることがご先祖様への貢献となるからです。
◼️マヌッシャヤッグニャ
私たちが生きていく上で、多くの人々の貢献があり、それぞれが役割を果たしていること、それによって社会が支えられていることに感謝し、与えられた場所で与えられた役割によって自らも与えることがマヌッシャヤッグニャです。
・奉仕によって社会を支える
以前であれば、巡礼者に食べ物を分け与えることと・anna dānamと、寝泊まりする場所を提供すること・vasati dānamの二つが、人間への奉仕の形として存在していました。避難してきた人を追い返さず対応することも、 vasati dānamとanna dānamであり、それがマヌッシャヤッグニャとなりました。現代では見知らぬ人を招き入れて問題が無いか、よく注意しなくてはいけません。
聖典を教える先生やサンニャーシーもキッチンを持たないため、gṛhastha・家庭人からのbhikṣāと呼ばれる食べ物の提供を受けます。gṛhastha・グラハスタは富を蓄えることを許されていますが、それは自分達だけで楽しむためではなく、他の3つのアーシュラマ、ブランマチャーリー、ヴァーナプラスタ、サンニャーシーを経済面で支えるためです。
グラハスタの説明 : gṛhasthaとは家庭人、経済人のことで、社会を支える一員。gṛhasthaだけがすべてのvaidika karma・ヴェーダで命じられた儀式を行う権利を持っています。したがって、gṛhasthaはsarveṣāṃ bhūtānāṃ lokaḥ・全ての生きとし生けるものが住む世界への貢献者になります。貢献者または恩人とは他者に利益を与える者という意味です。全世界が利益を受け取る人となり、その人が恩人、貢献者、全世界に奉仕する人、人生を奉仕の形に変える人です。
・分業化が進む社会で他者の貢献を思う
現代であれば、冬の寒い時期にも野菜の泥を洗って綺麗にして出荷してくれる農家の方々がいること、いくら安価な物であっても、完成して販売されるまでに多くの人々の手を経ていること、税金で支えられている様々な公共サービスや、下請け会社があるからこそ成り立つ産業構造などに思いを馳せ、それぞれの貢献に感謝することも、マヌッシャヤッグニャです。
公共サービスを提供をしてくれている方々への感謝と共に国民の義務である納税をすることはもちろんですが、私利私欲のために貯蓄するよりも、有意義な活動をしている慈善団体に寄付をするなど、積極的に与えましょう。それでも、お金で全ての尊敬を表すことはできません。例えば、農家の人が一日お休みする代わりに1万円があったとしても、そのお札は食べることはできませんので、お金を支払えば他には何もしなくていい、という態度ではなく、常に感謝を忘れないようにしましょう。
◼️ブータヤッグニャ
ブータヤッグニャとは、人間以外の全ての生き物(植物を含む)、宇宙に生息している全ての生き物(知っていても知らなくても生きているもの全て)に対しての貢献です。 家畜に餌を与えたり、毎朝玄関の前にランゴーリで曼荼羅や幾何学模様を描いて、鳥に水と穀物を捧げます。ランゴーリに使う粉には、米粉が含まれています。アリや鳥、虫たちに食べてもらうことでブータ・動植物へのヤッグニャ・儀式・貢献となります。もしもランゴーリという制度がなければ、生物は人間の残り物を食べることになり、これは与えることではありません。 小さな生き物、アリたちは私たちに頼っています。追い出さずに共存しましょう。 また、ランゴーリをすることで、ラクシュミー・富の女神を呼び寄せます。 そして、ランゴーリは、「誰にでもうちでご飯を提供しています」の目印になります。
インドでは家族の人数以上の食事を用意していて、いつでも訪問者に提供できるようにしています。予定外の来客は吉報とされているからです。 ランゴーリ以外の方法として私たちにできることは、生き物たちのために、「食べてもいいですよ」という与える為の木や植物を植えてあげるのも良い事です。ベランダにお水を置いてあげたり、プランターで植物を育てることも良いでしょう。 もし苦手な虫や動物が家や私に寄って来てしまうような事があるのなら、近寄ってくる前に予防策をしてあげて平和に共存をしましょう。
彼らが苦手とする匂いのあるハーブやスパイスを植えたり置いたりしてアヒムサーの選択をしましょう。 アロマの虫よけスプレーを作ったり、自分の食事内容を変えてみる事も良いでしょう。 蚊をパチン!っとする事はパーパを生みます。 日焼け止めや化粧品を選ぶ時も世界にしっかり配慮し、できる限り持ち物全て世界に負担の少ない与えても大丈夫な物を使いましょう。
○まとめ
生きとし生ける者の生存を大切にすれば、世界もあなたを大切にしてくれます。
他者に貢献する事によって世界からあなたに恩恵が返ってきます。
世界に利益を与えればあなたに利益が返ってきます。
世界に幸せを与えればあなたに幸せが返ってきます。
あなたが受け取ることができるときに返って来ます。
あなたが世界を守れば、世界はあなたを守ってくれるでしょう。
あなたがこの貢献を重荷に思うならば、世界もあなたを重荷として扱うでしょう。
あなたが世界に貢献するとき、世界はあなたを祈ります。
世界によるその祝福のみが、アンタッカラナ シュッディとなります。
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引用文献
Bṛhadaranyaka Upanisad by Swami Paramarthananda
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毎週日曜日8時のヴェーダーンタクラスで学習したパンチャマハーヤッグニャについて、かおり先生の解説を生徒が聞き、復習しながら生徒同士でまとめを作成しました。
そのためまとめの内容は全て、パラマールタナンダジによるブルハダランニャカウパニシャッド解説とその他の聖典、かおり先生による日本語での解説を元にしていることをここに明記します。
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